山ノ井と河合と島崎、そして高瀬。
途中まで帰り道が同じ四人は、練習が終わったあと、もうすっかり日の沈んだ帰り道を足早に歩いている。
その途中で、高瀬が店先に立てられたピンク色の旗を見て、ポツリと呟いた。
可愛らしい文字で書かれている単語は、バレンタイン。製菓会社の陰謀だと知りつつも、すっかり告白の日だと定着してしまった日本では、男女共にこの2月14日を心待ちにする者が多い。島崎もその一人だったりする。
「今年は幾つ貰えっかなぁ・・・・・」
嬉しそうに頬を緩める表情は、どことなく色気があっていやらしい。高瀬はそれに見惚れつつも、意外な気持ちだった。
「慎吾さんも、バレンタインとか気にするほうなんですか?」
必要以上にもてていて軽い感じのする島崎は、くれれば貰うが、積極的に欲しいと思うタイプではないと思っていた。高瀬もどちらかといえばそのタイプだ。
高瀬の考えが分かるのか、山ノ井はあははと笑う。
「慎吾はねぇ、甘いもの大好きだから。チョコが店に出だすと、自分で買っちゃうくらい。バレンタインは、タダで高級チョコを一杯貰える天国みたいな日だよねぇ」
「そうそう。去年なんか、BABBIとかDEMELのチョコがあってさ、すっげぇ上手かった。あ、あとカストナーも最高だったなぁ。バラッティ&ミラーノとか、マルキーズとか・・・・」
去年の収穫を思い出し、次々とブランドや商品の名前を挙げるが、それを正確に理解できる者はいない。河合と高瀬は、何一つ分からなかった。
「BABBIとDEMELは確か高級チョコのブランドだったかなぁ。あとは商品名だったと思うけど・・・・・どれも高いよ。トリュフが一個五百円以上するらしいし」
去年のバレンタイン、散々自慢―――というよりは嬉しさを知って欲しかっただけだろう―――された山ノ井は、一年前の記憶を掘り出してみる。
すると予想通り、メオトは驚いて目を見張った。
「トリュフって確か、あの一口サイズの丸いチョコですよね? アレが五百円!? 信じらんねぇ・・・・・」
甘い物をそれほど好まない高瀬は、今までくれた物の中にもそんなのがあったのだとしたら、申し訳ない気持ちになり少々青ざめる。しかし河合は、お姉さまより年下にもてるため手作りが多く、凄いなぁと思うだけだった。
「準太も今年は高いの一杯くれると思うよ? 高校と中学だと、全然金の掛け方が違うからねぇ。特に三年のお姉様とかはね〜」
島崎のように割り切って、高級チョコが貰えて嬉しいなどと思える性格でない高瀬に、山ノ井は面白そうに言う。
そして島崎には、意地悪く囁いた。
「けど、慎吾は減っちゃうかもね。社会人のお姉さまから、貰えなくなるから」
高瀬と島崎は、ビクッと肩を震わせ、焦る。
去年、というより、今まで高級チョコを多く貰っていたのは、島崎が誘われるままに年上の女性と付き合っていたからだ。しかし何を間違ったのか、年下の同性と付き合うようになった島崎は、他とは完全に手を切っている。もともと遊びに近い感覚で会っていたのだ。何のメリットもない相手に、年上の女性が高いチョコなど送らないだろう。
ぼけっとしているようで鋭い山ノ井に隠し通せると思ってはいなかったが、こんな風に口に出されると、やはり心臓に悪い。
高瀬は急いで別の話題に移す。
その不自然さに、河合が首を傾げたのだった。
そして数日後。
「やっぱり残念だったりします?」
二月に入り少しずつ校内も浮かれだした頃に、高瀬が何の脈略もなく問いかけた。
「んあ?」
当たり前だが、なんのことだと島崎は雑誌から視線を外した。部屋で寛いでいるため、手には板チョコがある。
それをじっと見て、高瀬はもう一度詳しく繰り返す。
「チョコを貰えないのって、やっぱり残念だったりします?」
「そりゃそうだろ」
少し沈んだ声に、島崎は即答する。それは高瀬を落ち込ませるに、充分だった。
目に見えて気を落とす高瀬を見て、つい本音を言ってしまったことに、島崎は少々後悔する。いつもは一年生をからかって遊ぶ島崎だが、今はふざけていいような雰囲気ではない。
手間のかかる恋人に微苦笑を浮かべ、軽く頭を叩いた。
「あのねぇ、じゅんちゃん。俺はただ単にチョコっていう甘い物が欲しいんであって、お姉さまの気持ちが貰いたいわけじゃないの。そのくらい分かるでしょうに」
幼い子供に言い聞かせるような口調だが、その奥には愛情が見える。
高瀬は小さな嫉妬をしてしまったことに恥しさを覚え、やはりまだまだ子供っぽい自分に軽い嫌悪を感じる。
またまた落ち込んでしまった高瀬に、今度はわしゃわしゃと髪をかき回した。
「暗い空気を漂わせない。今年は貰えなくなったチョコの分、準太が一杯愛してくれるんだろ?」
何でもお見通しの恋人は、くすりと笑って挑発する。それは高瀬を気遣ってのものだ。親しみやすいようで距離を置く島崎に、こんな風に気遣ってもらえるのは、彼のテリトリーに入っているからだろう。島崎の内側にいる数少ない者という事実に、高瀬の機嫌は急上昇する。
「もちろんですよ。いらないって言うくらい、あげますから」
置かれた板チョコを歯でパキンとわり、欠片を銜えてキスをした。
島崎もソレを受け入れるように、唇を開ける。
ミルクたっぷりのチョコレートが、二人の舌の上で溶けていった。
珍しく連続更新。
半年以上前ということで、少々幼くしたつもりの二人ですが・・・・ハイ、つもりだけですね;
で、私はうっかり気付いちゃいました。
指定物じゃない更新て、凄く久しぶりじゃないのか、ということに。
ちょびっとショックを受けた管理人です。(涙)
キャンディキス(一般的には恋人同士が口移しで飴をやり取りすること。甘さを含む味覚をやり取りする場合にも使われる)




![Powered by 269g[ブログ・ジー]](http://269g.jp/img/269g.gif)